【台湾から世界へ】玉村 如捺「逆輸入なでしこJAPANを狙う」
2023年3月、ひとりの大卒女子サッカー選手が、プロ契約を結んで海外リーグに挑んだ。
同年、筑波大学女子サッカー部を卒業したディフェンダー、玉村 如捺(たまむら ゆきな)選手。
彼女が選んだ挑戦の舞台は、東京から飛行機で約4時間の場所に位置する「台湾」。
台湾女子1部リーグを舞台に戦う「航源FC(Hang Yuan FC)」に加入した同選手は、センターバックのポジションを中心にリーグ全試合でフル出場を果たし、海外移籍初シーズンから大活躍。
玉村選手が思い描く大きな目標と、異国の地でプレーした日々について話を伺った。
「理想の自分」を追い求めた進路選定
福井県出身の玉村選手は、兄弟の影響を受けてサッカーを始める。
「気がつけば、人生の中心がサッカーになっていた。」
と語る同選手は、地元を離れて、岡山県立作陽高校や筑波大学などの名門校に所属してサッカーを続けた。
大学卒業を控え、進路を決める時にも「サッカーを続けたい」という意思が強いと同時に、「ひとりの人間としても様々な経験をして成長したい」という想いを抱くようになる。
「サッカー選手として上を目指したい気持ちはもちろんのこと、セカンドキャリアなどを含めて進路を考えた時に、導き出した答えが海外挑戦でした。自分の視野や価値観を広げたい想いと、 海外で生活しながらサッカーをプレーすることができたら、それが私にとっての理想の進路だと思いました。」
卒業間近に決心した「台湾」
大学在籍時から、卒業後に海外へ行くことを決心していた玉村選手。
「セカンドキャリアの選択肢に幅をもたせたい」と考えていたことから、英語圏の国を中心に情報を収集しており、最終的には英語とサッカーが両立できる環境の「オーストラリアリーグ」に焦点を絞っていた。
しかし、大学卒業を間近に控えていた時期、知り合いを通じて紹介を受けたことをきっかけに「台湾リーグ」という選択肢が浮上。
「正直、最初は台湾に行くことを考えていなかったのが事実です。ただ、しっかり話を聞いたり、自分自身でも色々なことを調べた上で決断しようと思いました。その結果、当時の自分がプロ選手としてプレーできる可能性が唯一あった国が台湾で、シーズンの開催時期や待遇面も含めて考えると、とてもありがたい話だと思いました。」
移籍期間の兼ね合いもあり、答えを出すまでのタイムリミットが非常に短い状況のなか、玉村選手が導き出した答えは「台湾でプロ選手になること」だった。
試行錯誤し続けた台湾での日々
期待と不安が入り混じる心境のなか、玉村選手は台湾へ渡航。
空港に送迎へ来たチーム関係者の優しさや気遣いに安心感を抱き、その後もチームが手厚くサポートしてくれたことで、生活面で大きく困ることは無かったと語る。
親切で優しい台湾の方々にリスペクトを抱く反面、ピッチ内では苦労したことも多かったようだ。
「チームメイトをはじめとする台湾の方々は、普段からとても優しくて親切。今でも本当に心から感謝しています。ただ、優しすぎる性格がピッチ内でも出てしまう時があり、チーム内での競争や、高いレベルを求め合うことが上手くできないギャップに悩みました。特に、チーム加入当初は悩みすぎて、自分自身のメンタルを上手くコントロールできなかったです。泣きながら練習していたこともありました…(笑)。」
現在では、当時の様子を笑いながら明るく話してくれるが、移籍当初は理想と現実のギャップに苦労したという。
玉村選手はその現状を打破するために、自らアクションを起こす。
同じチームメイトの日本人である田中美和選手とお互いの気持ちを共有したり、台湾人選手たちとのコミュニケーションを今まで以上に細かく取るよう工夫を重ねた。
また、自分自身の「成長」という部分にフォーカスすることを意識し、少しずつ改善を試みた。
「サッカーはチームスポーツなので、チーム全体に要求しなければならないことは必ず存在します。最初はそれを自分だけで解決しようとしていましたが、コミュニケーションの取り方を工夫したり、自身の成長にフォーカスする部分を意識したり…。様々な試行錯誤を重ねるうちに、精神的なバランスが取れるようになりました。」
台湾女子サッカーリーグのリアル
台湾・女子サッカーリーグに対する率直な感想を伺った。
「台湾のサッカーは全体的にゆっくりしている印象です。私は日本の大学サッカーでプレーしていましたが、プレーの強度やスピードは日本の大学サッカーの方がレベルは高いと思います。技術面でも、日本の方が高いと感じました。」
また、現地の選手たちとのエピソードも話してくれた。
「普段から優しい台湾人の性格が影響しているのかもしれませんが、例えば私がチームメイトに何かアドバイスした時に、素直に要求を聞いて実行に移そうとしてくれる印象が強いです。自分で言うのもおこがましいですが、加入当初と最終の試合を比べた時に、明らかにプレーのしやすさが変わりました。」
台湾・女子サッカーリーグの待遇や環境は、どのような状況かも気になる。
「私が所属した航源FCの話になりますが、サッカーの給与で生活ができる環境を整えてくれているので、とてもありがたいと思いました。台湾は親日の国ですし、住みやすい場所だと感じています。私は海外初挑戦でしたが、1年目からこの環境でサッカーができたことに、とても感謝しています。日本のWEリーグやなでしこリーグと比べると全体的なレベルは正直落ちると思いますが、プロ選手としてプレーしながら海外生活を送ることは、とても貴重な経験になると思います。」
更なる成長を求めて
海外リーグに初挑戦した2023年シーズン。
玉村選手が所属した新北航源FCはリーグ戦2位となり、同選手はDFとして全試合にフル出場。
最終戦ではプロ初ゴールを記録するなど、ディフェンスリーダーとしての役割にとどまらず、チーム全体を牽引する活躍をみせた。
「個人的に立てた目標を達成できた部分もあれば、まだまだ課題を感じている部分もあり、決して今の自分に満足はしていません。ただ、シーズン通じて成長を実感できた部分もあるので、その点は良かったと思います。」
と、今シーズンの感想を語る。
チームからの信頼を勝ち取り、中心選手として翌シーズンの契約更新を打診されていた玉村選手。
しかし、同選手は自分自身の更なる成長を求めて、新たな挑戦をすることを決意した。
「台湾での生活にも慣れて、いまは居心地もすごく良い場所だと思っています。チームにも大変感謝しています。ただ、自分の目標や成長を考えたときに、環境を変えて新たな挑戦をすることがベストだと思いました。具体的には、オーストラリアに挑戦することを決断しました。」
「逆輸入・なでしこJAPAN」を目指す
2023年12月現在、オーストラリアでの所属チームは決まっていないが、2024年1月から現地に渡航予定。
新たな環境に身を置き、2カ国目の海外挑戦を決断した玉村選手。
最後に、今後の目標について話を伺った。
「日本人のサッカー選手としてプレーしているので、やるからには一番上(日本代表)を目指したいという気持ちは今も昔も変わりません。そこに近づくためにも、まずはオーストラリアでプレーすること。そして、現地のトップリーグ(Aリーグ)でプレーすることが直近の大きな目標です。現実的に可能かどうかは、やってみなと分からないと思うので、本気でチャレンジしたいと思います。」
グローバル化が進む現代において、女子サッカーの取り巻く環境も大きく変わってきている。
男子サッカーと同様に、日本人の女子選手が海外でプレーすることが当たり前のような状況になり、選手の所属する国や地域も多種多様になってきた。
日本では馴染みのない「台湾女子サッカーリーグ」だが、選手としての実力があれば、玉村選手のようにプロ契約を締結してプレーできるチャンスがある環境だ。
台湾からプロキャリアをスタートし、”逆輸入選手”として「なでしこジャパン」に選出され、日本代表の青いユニフォームに袖を通す…。
決して夢物語ではないことを、玉村如捺選手がきっと証明してくれる。
今後の活躍にも、目が離せない。
■プロフィール
玉村 如捺(Tamamura Yukina)
2000年 4月3日生まれ(福井県出身)
ポジション:DF
■経歴
今立サッカースポーツ少年団
南越中学校男子サッカー部
岡山県作陽高等学校女子サッカー部
筑波大学女子サッカー部
新北航源FC(台湾女子1部)
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